華麗なる除雪テクニックの裏側に迫る(前編)
正直、気になる雪のこと
新潟に住もうと思うと、正直気になるのは冬のことだと思います。なかでも「どのくらい雪は降るの?」は必ず質問されることの1つで、他にも寒さ、光熱費など、色々気になるところですよね。ただ地元・見附の人から言わせると、少なくとも冬については、積雪量を気にするより、気にするべきは、ショーパイ※があるかどうか、また近隣の除雪テクニックはどうか、だと言います。冬の快適度は、大きくこの2つに左右されると。
【ワンポイント除雪用語その1】ショーパイ (A Japanese road sprinkler system) ショーパイ…消雪パイプの略。道路に埋め込んだパイプから路上に設置したノズルを通して路面へ水を散布する除雪・融雪・路面凍結防止装置。考案者は諸説あるが、柿の種で知られる浪花屋製菓の創業者、今井與三郎とされる。絶えず水がほとばしる様は、まるで水芸のよう。
日常会話にあふれる「ショーパイ」
ちなみに、ショーパイという言葉を初めて聞いたとき、何のことを言っているのかわからず(※取材者は移住してきたため)個人的には「ショコラパイ」あるいは「ショーソン・オ・ポム」のようなパイを連想しつつ聞いていました(笑)ちょっとおいしそうなパイに似た響きが、会議や普段の会話でたくさん聞かれる見附の冬も、なかなか素敵ですよ。 —さて、話を戻しますが、特に周囲を山で囲まれているような中山間地域や積雪の多い地域にとっては、除雪車はまさにヒーロー的な存在です。実際、これまで行ってきたインタビューや座談会でも「見附は除雪が上手」と話された方が複数いらっしゃいました。中でも今回は「山間部の除雪が特にすごい」という評判に目をつけ、山沿いの地域を担当されている小林興業さん(見附市宮之原町)に取材をさせていただきました。前編、後編の2部構成でお届けします。
除雪の仕事とは?
今回、取材に応じていただいたのは、株式会社小林興業・代表取締役の小林勝さん。名刺には建設業、とありますが、主に除雪は建設業の皆さんの冬の仕事になっています。 ちなみに小林興業さんは、主に上北谷(池之島を除く)と杉澤エリアの除雪を担当されています。
―基本的なことから教えていただきたいんですが。
「はい、除雪車を運転するには資格がいるんですが、その資格保持者が5名で、助手が5人の計10人体制でやっています。除雪車は全部で5台あります。作業にあたる人は、30代から上は70代までいますが、除雪の向き不向きは、年齢や経験年数というより、むしろ性格によるものが大きいんですよね。」
―良くベテランだから上手いとか、地元の方から聞きますけど、そういうものでもないと?
「いやー、それ良く言われますけど、例えば几帳面な性格の人はきれいにやりますし、もちろん慣れはあると思いますが経験年数じゃないと思いますね。」
―除雪車って運転席ばかりに目がいきがちですが、助手席に座っている人って、具体的に何をしているんですか?
「それが座っているだけじゃないんですよ(笑)。例えば、県道の除雪は夜中でも車が来たりするので、その場合、助手席の人が降りて誘導をしたり、サポートにあたります。あとは見通しの悪いところでも降りて、バックの指示をだしたり。実際は助手席に座るだけでもかなり揺れるので、体に負担がかかります。」
―聞いていると助手席の方も、ハードな仕事だということがわかりました。ちなみに、その除雪車出動はどのタイミングで判断されるんでしょうか。
「山沿いについては、自分が積雪を見極めて出動要請をかける担当をしています。10センチ積雪したら、除雪車を出動させるということになっているんですが、観測するための台を作って、そこで計測をするほかに、周辺をパトロールして様子を見たうえで、最終的に出動するかの判断をしています。」
―数値で判断というわけではないんですか?
「やはり、板の上に積もった雪と、土の上の雪と温度が違うので、溶ける速さや積雪の数値もちょっと変わってくるんです。最終的にはあらゆる数値や状況を総合して、そろそろかな…と思ったら出動の要請を出します。」
―責任重大ですね。
「はい、その積雪と出動の見極めを誤ると、あとで大変なことになるので、重要な仕事だと思います。」 「前の日に出動とわかれば、安心して寝ていられますが、中途半端に様子がわからないときは、22時くらいから1時間ごとに、起きて測ったりしています。例えば、23時、12時、1時と起きて、数値をチェックするんですが、このシーズンはあまり気を抜いて、眠ることはできないですね。飲みのお誘いにも、なかなか応じられなかったりします。」
いよいよ出動、となったら
「除雪の招集がかかってから、出動するまでの時間は各社まちまちなんですが、自分のところは2時に出動する体制でやっています。だいたい7時までに除雪を終わらせなければならないので、逆算すると、2時くらいから動かないと間に合わないんです。」 「もちろん”今日は大降りでとてもとても間に合わないな”というときは、8時9時までかかることもありますが、まずは路線をひとまわりして、7時までに最低車だけは通れる状態にします。通勤通学の時間帯の時間が過ぎたら、また通れる幅をちょっと広げたり、というような作業をやったりします。」
―まずは、一回押して踏むみたいなかんじですかね?
「いや、踏んじゃダメなんです、抜けるんです。」
―抜けるとは?
「押しのけるっていうんでしょうかね。“雪抜け”といって除雪での独特の表現かもしれません。」
【ワンポイント除雪用語その2】雪ぬけ
雪抜け…道路の雪を除雪車が押しのけて道をつくること。作業している方に「雪ぬけしてください」とお願いすれば通じます! ※上北地域では「ゆきぬけ」と言いますが、地域によっては「ゆきのけ」と呼ぶこともあります。 ついでにもう一つ知っていると話がわかりやすくなる、除雪用語がこちら。
【ワンポイント除雪用語その3】排雪
排雪(はいせつ)…道路の雪を畑や空き地などに一時的に置き、その後車に積んで川などの決められた場所にダンプなどで運んで捨ててくること。※ちなみに見附には、その雪捨て場が2か所あります。
―除雪の作業を終えられた後はどうするんですか?
「除雪が終わったら、オペレーターとして現場の仕事にあたりますよ。」
―えぇ!なんてハードな。
「雪がもっと多い場所だと違うんでしょうけど、見附だと現場の仕事もあるんで。除雪が終わったら一旦、家に帰って朝ご飯を食べて再び出勤して、通常のオペレーターとしての業務を17時までやります。雪が多くて冬場、除雪の仕事がメインになる魚沼や隣の栃尾などは、また違うみたいですけど。」
―2時~17時まで働くってことですか?
「そうです。ほんとに雪が多い時は屋根の雪下ろしなどの依頼も入って、通常業務ができないので、ひたすら除雪関連の仕事に追われます。そういう時はほんとに一気に依頼がきて、パニックになりますよ。ただ、あらかじめ次の日も除雪とわかっている場合は、オペレーターも助手も交替するようにしています。うちは除雪専門の方を2名入れて、対応しています。やはり疲れて、作業中危険なことになったら困るので。そこだけは注意してもらっています。」
聞きにくいけど気になる、苦情について
―実際どんなクレームがあるんでしょうか。
「苦情は、”道路に出る前に、そもそも車庫から出られない”とか、”いつもはこの時間にくるはずの除雪車がこない”といったものまで、色々あります。あとは、”自分の家近くにたくさん雪を置いて行った”みたいな苦情とか。」
―それは事実なんでしょうか?
「意図してやってるわけではないんですが、確かにあるんですよね。オペレーターのやり方にもよるんですが、丁寧によけていく人もいるし、その時の雪質をみて、除雪方法を決めるので、固まった雪がたまたま家のシャッターの前に溜まってしまう、みたいな状況もあります。」 「そもそも除雪車が通ったあとは、自分の家からすっと出られるレベルまで除雪してもらえるものだ、と思っていらっしゃる方もいるし、自分で雪かきを一切する気がない方などは、毎度毎度苦情を言われます。仕方のないこともあるんですが。」
―でも、私たちがインタビューする中では「見附の除雪は上手い」と感謝されている方もいらしたので、そこはお伝えしたいなと思っていたんですが。
「いや、この時期かかってくるのは、だいたい苦情の電話ばかりなんで、最初取材って聞いたときにはびっくりしました。除雪の仕事について、そんな風に言って下さっている方がいるなんていうのも…ほんとなんて言っていいか。ありがたいですね。」
除雪作業は時間とのたたかい
―ところで作業中の休憩はどうしているんでしょうか?
「実際、ほとんどしないですね。実はチャート紙っていう紙があって、何時から動いているか、振動を図ったり、エンジンの稼働を測る紙で稼働時間を管理しているんです。タコグラフって呼んでいるんですが、これを車に取りつけて、稼働しているので、これを見るとわかりますよ。」
―このグラフはどういう風に見るんですか?
「上がスピードで、下がエンジン回転数を表しています。これで稼働状況がチェックされるようになっていて、作業終了後はその日のうちに、所定の書式に日付などを記入して提出する仕組みです。」
―間隔の空いているところがほとんどない、ということは、ほとんど休憩していないっていうことですよね。
「このオペレーターの場合はそうなりますね。実際は5分程度の休憩をはさみつつ作業しているかんじだと思います。ただとにかく7時までに終わらせないと皆さんに迷惑がかかるので、そこだけは注意していますね。」
(後編へつづく)次回はいよいよ除雪車の裏側に迫ります
2017.12.22 Friおすすめの記事
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